言わずと知れた京セラの創業者である稲森和夫氏ですが、稲森氏から我々が学ぶべきことは枚挙にいとまがないです。
その中の一つとして「京セラ会計学」についてのエピソードを紹介いたします。
1959年に京セラを創業した稲森氏ですが、当時は技術者としての経験を生かして会社経営をしていたようです。しかし、「会計」については何も知らなかったようで、当時は初めて貸借対照表を見て、右側に「資本金」というお金があり、左側に「現金預金」というお金がある。なんでお金が二手に分かれているんだろうくらいの理解だったようです。
しかしながら、社員たちはあらゆる事柄について社長である稲森氏に判断を仰いできます。当時は京セラも零細企業だったので、一つでも判断を間違えればすぐに会社は傾いてしまいます。当時の稲森氏は何を基準に判断すればいいのか悩んでいたそうです。
そして、経営の知識や経験はないのだから、すべての事柄について「人間として何が正しいのか」「正しいことを正しいままに貫いていく」ことを決意したそうです。その結果、物事の本質を捉えることができたと語っていらっしゃいます。
「会計」についても同様だったようです。常に物事の本質に立ち返って考えるようにしていたので、何かあれば当時の経理担当者から詳しく説明をしてもらうようにしていたとのことです。
しかし、稲森氏が知りたかったのは、会計や税務の教科書的な説明ではなく、会計の本質とそこに働く原理であったようですが、経理担当者からはそのような回答が得られなかったようです。経理担当者から「会計的にはこのようになる」と言われても、腑に落ちるまで「それはなぜか?」と納得できるまで質問を重ねていったそうです。
そのうち経理担当者も、「経営のための会計」という考え方を会得していったそうです。
これが全社的に浸透し、そのような考え方が「京セラ会計学」として京セラ成長の原動力の一つとなっていったのです。
稲森氏は現在では「会計」に明るく、精通している方だったのは有名ですが、技術者として起業し、社長業を営んでいく上で、貸借対照表から会計を勉強していったことは特筆すべきです。
世の中の経営者が起業するにあたり、その業界の技術者であったり、あるいは営業職であったりする場合がほとんどです。例えば経理から起業する場合というのはほとんどなく、あるとしても経理代行業や税理士、公認会計士という資格を取って独立するケースはあるものの、レアケースと言えます。つまり、基本的に独立開業しようとする方は、その業界で自分の思うようにやりたいと思って独立する方が多く、経理や会計のことは付随業務のように考えていることが多いわけです。だからほとんどの場合は税理士に経理を委託するということなのですが、稲森氏は自ら会計の世界に入り、会計の本質を突き詰めていったところが一流たる所以なのでしょう。
ところで「会計の本質」って何なんでしょうね?
私も会計士試験の受験勉強を5年、税理士事務所や監査法人で10年以上働いていますが、不勉強なのか、未だに「会計の本質」はわかりません…。